有機化学的アプローチにより筋萎縮性側索硬化症(ALS)の 発症メカニズム解明を促進

―ALS原因タンパク質であるTDP-43の翻訳後リン酸化体を化学合成することにより自己会合性に与える影響を解明―

発表日 365体育app7年4月25日(金)

発表のポイント

  • ALS原因タンパク質であるTDP-43のセリンリン酸化体の化学合成に成功した。
  • TDP-43の自己会合性におけるセリンリン酸化の影響を解明した。
  • セリンリン酸化がTDP-43の自己会合性を弱める機構を原子レベルで解明した。

発表内容

 和歌山県立医科大学 薬学部 相馬 洋平 教授、佐々木 大輔 講師、天田 真緒(学部5年生)の研究グループは、ALS原因タンパク質であるTDP-43の翻訳後リン酸化修飾体を化学合成することに成功しました。これにより、TDP-43の自己会合に対するセリンリン酸化の影響の一部を明らかにしました。

 TDP-43は、主に細胞核内に存在する414残基からなるタンパク質です。TDP-43は核内にて生理的に自己会合することによりRNA代謝などの機能を担う一方、細胞質ではアミロイドと呼ばれる凝集体へと自己会合することによりALSなどの神経変性疾患の原因となります。TDP-43のリン酸化はこれら生理的および病的会合に影響することでALSを悪性化すると考えられていますが、リン酸化を受けるアミノ酸残基の部位が多様であるため、自己会合におけるリン酸化の影響を残基レベルで区別して解析することは難しい現状があります。

 今回、有機化学的な手法を利用することにより、48番目のセリンのみリン酸化されたTDP-43を得ることができました(図①)。また、当該リン酸化体の自己会合性を非リン酸化TDP-43と比較した結果、リン酸化がTDP-43の自己会合性を低下させるとともに、アミロイドの形状とは異なる凝集体を与えることが明らかになりました(図②)。さらに、リン酸化体の立体構造を解析したところ、48番目セリン側鎖のリン酸基が、もう一分子の17番目のグルタミン酸側鎖のカルボキシ基との間で静電反発を招くことにより、TDP-43分子間の自己会合性を弱める機構が原子レベルで明らかになりました(図③)。

 今後は、当該リン酸化TDP-43のALS悪性化メカニズムをさらに解析する予定です。例えば、当該リン酸化TDP-43の低会合性に伴い核内での生理機能が障害される可能性、低会合性に伴い細胞質での酵素分解を受けやすくなり、凝集コアとして知られるペプチド領域の産生が促進される可能性などを調べる予定です。また、今回TDP-43の化学合成法を確立できたことから、48番目以外のセリンがリン酸化されたTDP-43なども合成する予定です。最終的には、悪性度の高い翻訳後修飾TDP-43に対するリガンド(結合分子)を取得することにより、TDP-43の神経毒性を抑制する薬剤などの開発を目指したいと考えています。

図1:今回得られた成果の概要

図1:今回得られた成果の概要

論文情報

雑誌名: Communications Chemistry

題 名: Semi-synthesis of TDP-43 reveals the effects of phosphorylation in N-terminal domain on self-association

著者名: Daisuke Sasaki*, Mao Tenda, Youhei Sohma*

DOI: 10.1038/s42004-025-01522-1

URL: https://www.nature.com/articles/s42004-025-01522-1

研究助成

本研究は、科研費「基盤研究B(課題番号:JP24K02153)」、「学術変革研究(課題番号:JP24H01787)」、「基盤研究C(課題番号:JP24K09344)」、「公益財団法人 アステラス病態代謝研究会」、「公益財団法人 篷庵社」、「公益財団法人 武田科学振興財団」、「和歌山県立医科大学若手研究支援助成2022」の支援により実施されました。

問合せ先

(研究内容については発表者にお問合せください)

和歌山県立医科大学 薬学部
教授 相馬 洋平(そうま ようへい)
Tel:073-498-8543 E-mail:ysohma@wakayama-med.ac.jp

和歌山県立医科大学 事務局広報室
Tel:073-447-2300(代表)  E-mail:kouhou@wakayama-med.ac.jp

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